インドでいちばん長い一日

ネギさんとお出かけ

みんなが出て行った後、ネギさんと立ち話[ばなし]。「暑いからビールでも飲みたいね」って冗談[じょうだん]で言ったら、ネギさんに「5時に待ち合わせして、一緒に外に出かけよう」と誘[さそ]われました。学校の規則[きそく]で飲酒[いんしゅ]や喫煙[きつえん]は禁止されていましたが、学校が終わったのでまぁいいか。罪悪感[ざいあくかん]なく飲めます。ただ、そうは言ってもインドでは酒飲[さけの]みは肩身[かたみ]が狭[せま]いですが。

2人で行くはずが、いつの間[ま]にか5人になってました。ネギさんはマーケットで瓶[びん]ビールを箱[はこ]ごと(20本くらい)買ってました。彼のお気に入りは「King Fisher[キングフィッシャー]」という会社のビール。インドでは航空会社も経営している大きな会社です。ビール会社が飛行機を飛ばしているって、ちょっと変な感じがしますね。まっすぐ飛ぶんでしょうか。

街の外[はず]れにある公園までリキシャで行き、その公園のまた隅[すみ]っこの人目[ひとめ]につきにくいところに座りました。地面に座るため、他のインド学生が「これを使うといい」と落ちていた新聞紙を持ってきてくれました。気が利[き]きます。ただ、拾[ひろ]ってきた新聞紙と地面とどっちがきれいか微妙[びみょう]でしたが(笑)。

インディアン・オープナー(インドの栓抜[せんぬ]き)

さぁビールを飲むぞ!と思ったら栓抜きがありません。隣[となり]にいたオームくんに「栓抜きある?」って聞こうと思って彼の方を向いたら、なんとオームくんはビール瓶にかじりついてました。そしてガリガリかじって見事[みごと]にビール瓶の栓を歯で開けてしまいました。「すげぇ!オームが歯で栓を開けたよ」って言って反対側[はんたいがわ]に座ってたラジェンドラくんの方を見たら、彼もビール瓶にかじりついてました(笑)。みんな当たり前のように歯で開けていてビックリです。

しかし、やっぱビールはうまいっすね!ネギさんがビールを飲んでから「ぷはぁー」って言ってるのを見て「インド人もビール飲んだら日本人と同じリアクションするんだ」ってわかって嬉しくなりました。

ネギさんが買ってきてくれたチキン料理とビールは相性抜群[あいしょうばつぐん]でした*1。オームくんだけヴェジダリアン(菜食主義者[さいしょくしゅぎしゃ])で、あとの3人はみんなノンヴェジタリアンでした。インドでは半数以上がヴェジダリアンなので、この比率[ひりつ]はちょっと珍[めずら]しいかも。みんなしきりに「これ食え、ビール飲め」って勧[すす]めてくれました。

ヒンディークラスの学生

しばらくして気付いたんですが、わたし以外はみんな「ヒンディー語クラス」の学生でした。学校では媒介言語[ばいかいげんご]によって「英語クラス」と「ヒンディー語クラス」に分けられていました。ヒンディークラスの学生でも英語をペラペラ話す人もいれば、英語をほとんど理解できない人もいます。オームくんとラジェンドラくんは割と英語ができますが、ネギさんともう1人のムケーシュくんはあまり得意ではありません。でも、流暢[りゅうちょう]に英語を話す学生と会話しているときより、ヒンディークラスの学生とゆっくりと簡単な英語で話をしているときの方が楽しいです。素直[すなお]で純粋[じゅんすい]な人が多くて、一緒にいてもあまりストレスを感じさせません。

このとき一緒にいたヒンディークラスの学生を紹介[しょうかい]します。オームくんはいつも優しい笑顔をしている人で、プラクティスのときは一生懸命に難しいアーサナに取り組んでいました(本当はアーサナは頑張[がんば]ってやるものではないんですけどね)。わたしは体調を崩[くず]してプラクティスを休むことが多かったのですが、久しぶりに出席したときなどは心配そうな表情で声をかけてくれました。


オームくんと日本からの留学生

ラジェンドラくんは、とても面白いキャラクターの人です。よく楽しそうにぶつぶつ独[ひと]り言[ごと]を言ってるのを見かけます。彼は「アーサナチャンピオン」で、非常に体が柔[やわ]らかいです。男子寮に行くと、彼はよくランニングシャツ(タンクトップ)にパンツ一枚という格好[かっこう]でウロウロしてました。


ラジェンドラくん

ムケーシュくんは携帯電話が大好きな人で、しょっちゅう誰かと電話してます。カメラを向けると「お気に入りのポーズ」を取ります(笑)。


ムケーシュくん



みんなヒンディーで会話してましたが、しばらくすると何を話しているか英語で解説しくれます。学校のことやこれからのこと、結婚のことなど。ちなみに、こちらでは必ずと言っていいくらい「結婚してるのか?」「してないの?じゃあいつするんだ?」って聞かれます。大きなお世話です(笑)。

会話が弾[はず]むにつれて、話題は他のインド学生の悪口[わるくち]に。定番[ていばん]ですね(笑)。1人が熱く誰かのことを語っていました。誰のことか聞いてみると、(悪口なのでここからは名前を伏[ふ]せさせていただきます)Aくんという英語クラスの学生でした。彼は決して悪い印象の人物ではないんですが、ひとつだけ問題があります。彼は八方美人[はっぽうびじん]なところがあり、ぶっちゃけて言うと、いわゆる「女たらし」というやつです。この「手[て]」の人はどこに行っても嫌われるんですねw わたしは彼のことを遠くから見ていただけでしたが、それでも何となく「この人は女の子にルーズな感じかも」って思っていました。彼の悪口を聞いて予想が的中[てきちゅう]していたことがわかりおかしかったです。

インドでぽろぽろ

悪口ついでに今日の卒業式での奨学金についてどう思うかみんなに聞いてみました。「あの奨学金はあり得[え]ない。奨学金をもらったBなんて、『奨学金あげちゃいけないランキング1位』だ」というようなことをわたしが言ったら、みんなも同じような意見でした。奨学金をもらったもう1人のCくんは「あいつは時間があれば『噛[か]みたばこ』をやってた」そうです。普段の振[ふ]る舞[ま]いも「チンピラ」みたいな人でした。悪いヤツじゃないんだけどね。それで、なんでそういう人たちが奨学金をもらったかというと、要[よう]は奨学金の選考を担当している大学のスタッフに気に入られていたからだそうです。

個人のプライバシーに関わるので、あまりこういうことを書かない方がいいのかもしれませんが、インド社会の問題点がよく現れているので敢[あ]えて書きました。インド社会では汚職[おしょく]が横行[おうこう]していてそこらじゅうで賄賂[わいろ]がやりとりされているそうです。金額も半端[はんぱ]な額[がく]ではないみたいです。奨学金なんてそれに比[くら]べれば高[たか]が知れていますが、しかし、自分の役職[やくしょく]に与えられている権益[けんえき]を不正[ふせい]に行使[こうし]しているという意味では同じです。

という訳で、インド社会について知る上では参考になる事例だと思われるので取り上げました。BくんとCくんにはちょっと悪いけどね。でも、貰[もら]う物[もの]貰ったんだから我慢[がまん]してね。

それで、なぜインド社会の人間ではないわたしがこの奨学金の選考に怒[いか]りを覚えているかというと、本来奨学金を貰うべき人物(つまりわたしのクラスメート)が正当に評価されなかったからです。ほとんど欠席することなくプラクティスにも講義にもまじめに取り組んで、みんなからも好かれていたアンカンくんがホントなら奨学金を貰うべき人物だとわたしは思います。他の学生もそう思っていたようです。彼はマラリアに罹[かか]って少し休んでましたが、それ以外ではほとんど全部出席していたはずですし、先生がいないときでも「あんまり」さぼらずにプラクティスに取り組んでいました。しかも、彼はベンガル出身でヒンディー語母語でないハンデを背負[せお]ってました。もう1人のベンガル出身の学生がいたのですが、途中で家庭の事情により学校を去り、ベンガル出身はアンカンくん1人になってしまいました。そういう状況下[じょうきょうか]で頑張っていたアンカンくんが、一部の不心得者[ふこころえもの]のせいで正当に評価されないことを考えると腹が立って仕方[しかた]ありません。

アルコールが回ってきた状態で熱く語っていると、次第[しだい]に感情的になり、恥[は]ずかしいことにみんなの前で泣いてしまいました(笑)。涙がぽろぽろ。そしたら、ラジェンドラくんが「おいおい、泣くなよ〜」って笑ってました。

まずい!(インドでオエオエ)

残り最後のたばこをみんなで回しているときにはもうすっかり暗くなっていました。みんなの顔もはっきり見えません。「お開[ひら]き」の時間です。立ち上がって歩こうとしたら、ふらふらして足下[あしもと]がおぼつかない。元々お酒にはそれほど強くないうえに、最近はほとんど飲んでいなかったので、かなり酔っぱらってしまいました。ラジェンドラくんが支えてくれて、やっとまっすぐ歩けました。

しばらくして、みんながたばこ屋さんの前で立ち止まり、「噛みたばこ」を買ってました*2。わたしもちょっと試してみました。すると、これがとてもまずい!味も問題だったのですが、慣[な]れていないせいで、一気に気分が悪くなってしまいました。

意識[いしき]ははっきりしていたんですが、とにかく気分が最悪[さいあく]。駅の近くにあったベンチに腰掛[こしか]けることに。みんなが「気持ち悪かったら吐[は]いたらいいよ」ってしきりに言ってくれます。しばらくすると、吐き気[け]がしてきたのでお言葉に甘えて吐いちゃいました。

ぉぇぇぇ
  ∧∧  ○
⊂(Д`⊂⌒`つ
 ;:。o;.

そしたら、みんな「吐け吐け」って言ってたのに、わたしが吐いた途端[とたん]「わぁー」って言いながら逃げて行きましたw ちょっと悲しい気分。みんなどっか行ったはずなのに、近くに人の気配を感じました。横になった状態で見上げたら、ネギさんが目の前に立っていました。アイスをぺろぺろ舐[な]めながら普段と変わらない表情でこちらを見てました。溶[と]けたアイスがぽたぽたと落ちてシャツについてます。ネギさんは無骨[ぶこつ]だけど、ハートウォーミングな気持ちにさせてくれる人です。

しばらくしたらみんな戻ってきました。「暑いだろう?」と言って寝ているわたしの顔に息を吹[ふ]きかけてくれます(苦笑)。そして、「アイス買ってきたから食え」って口にアイスを突っ込んでくれました。やられ放題です。有[あ]り難[がた]いんだか迷惑[めいわく]なんだか、何が何だかわからない状態。でも、おかげで少し気分がマシになりました。

リキシャを使って学校に辿[たど]り着[つ]いたものの、まだまともに歩ける状態ではなかったので、ネギさんの部屋でしばらく休ませてもらい、12時頃にやっと自力[じりき]で部屋に戻りました。

今日は、カリカリ答案[とうあん]書いたり、うとうとしたり、どきどきしたり、飲んだり、吸[す]ったり、怒ったり、泣いたり、吐いたりと、とても忙しく、インドでいちばん長い一日でした。

*1:ビールと料理のお金を払[はら]おうとしたんですが、ネギさんは頑[がん]として受け取りませんでした。この間[あいだ]、ネギさんを食事に招待したのですが、そのお礼[れい]という意味だったのかもしれません。

*2:わたしの周囲では、普通のたばこ(「巻きたばこ」)より噛みたばこの方が一般的な印象を受けます。インド全土[ぜんど]ではどうなのかわかりませんが。