毛[け]

(「アロークくんの妄想[もうそう]」の続きです。)

マーケットで買ったChikkiをアロークくんはみんなに分けてくれました。すぐに人の物を欲しがると同時に、自分の物も他人に分けてくれるので、この点では矛盾[むじゅん]がないですね。

Chikkiを食べながら、みんなで他愛[たあい]のない会話をし始めました。この街は自分の街よりも物価[ぶっか]が高くて困る、散髪代[さんぱつだい]は3倍もするよ、とか。それで、日本では散髪はいくらかかるのか聞いてきました。1500ルピー(3000円)くらいと答えるとビックリしてました。それもそのはず、インドでは60円くらいです。おそらく人件費[じんけんひ]の違いも大きいんだと思いますが。

「1500ルピーもするのか!」とアロークくんが驚[おどろ]いているので、急いで付け足しました。「でも、わたしは自分で切ってるけどね」。物価の話をすると、日本から来た奴[やつ]らは金持ちだ、と勘違[かんちが]いされかねないので、できるだけ誤解を解[と]くようにしています。たまにはウソもついてます(「ウソも方便[ほうべん]」ってやつですね)。散髪については、実際に自分でやっています。短くバリカンで刈[か]るだけなんで、わりと簡単です。

わたしのバリカンの話になって、「アロークの髪もやってあげようか?」って言ったら、笑顔で断られました。実は、彼らはかなりおしゃれに気を遣[つか]っていて、坊主頭[ぼうずあたま]なんか「ださい」と思っているようなんです。ここにはインドのおしゃれ番長[ばんちょう]があちこちにいます。アロークくんもその一人です。


「おしゃれ番長の後ろ姿」

ここらへんからアロークくんがヘンなことを話し始めました。ベッドに横たわりながら会話していた彼は、胸とお腹の辺[あた]りをさすりながら、「バリカンで胸毛[むなげ]はカットできるか?」って聞いてきました。「なにが悲[かな]しくて、俺のバリカンでお前の胸毛を刈らないといけないんだ?」と思いつつ、本当はできなくはないのだけど「それは無理だ」と答えました。で、ここから「毛[け]」の話。

一般に、インドの人は毛深[けぶか]い人が多いみたいです。普段は気付かなかったけど、アロークくんも胸毛や腹毛[はらげ]*1が結構濃[こ]いです。でも、インドの人の毛深さでビックリすのは、なんと言っても「耳毛[みみげ]」でしょう。「え!そんなところから毛が生[は]えるの?」って感じで面白いです。みなさんもぜひ見に来てください。

アロークくんは毛深いのが気になっているようで、彼ほど毛深くないわたしやアンカンくんをみながら「いいなぁ〜、うらやましいなぁ〜」って感じで自分の胸毛と腹毛をさすってました。アンカンくんは「俺も少しはあるよ」と彼を慰[なぐさ]めてました。わたしも「別に気にすることないんじゃない?」と正直に言ってあげたんですが、何を思ったのか、彼は急に毛の利点[りてん]について説[と]き始めました*2

アローク「毛がなかったらいろいろ困ることがあるだろう。例えばバスに乗って来た人がいて、その人がヒゲを生やしてなかったら男か女か分からないだろう。」
わたし「本人が男か女か分かっていれば問題ないんじゃないの?」

そんな話をしてるうちに、彼の頭が暴走[ぼうそう]し始めました。

アローク「想像してみろよ、俺の部屋に知らない誰かがいたとしよう。そしてベッドに寝ているとしよう。(ブランケットをかぶりスネの部分だけめくってみせて)ほらこんな感じでスネの部分しか見えてないとしよう。もし毛で(性別の)判断ができなかったら、男か女か分からないじゃないか!」

いやいやいやいや。アロークくん、それただのキミの妄想[もうそう]ですから。
「お前は中学生男子か!」とツッコミたくなりました。

(おしまい。)

*1:「はらげ」という日本語があるのかどうか知りませんが。

*2:こういったインドの人たちの話題の展開[てんかい]の仕方[しかた]はまったく理解不能[ふのう]です。